「当麻散歩道」  YUI∞佐藤由美子 (4西3)

 小さな東屋をくぐり抜けゆるやかな傾斜地を下り始めると、そこはもう太古へと繋がる回廊だ。太い幹が何本にも株立ちとなって枝葉を伸ばすカツラの樹が出迎えてくれる。一体どれほど長い時を生きているのだろう。ねぇ、あなたはオオカミを知っている?大きなウロに身を沈め、静かにカツラの長老に話しかける。カタクリがうつむきながら頬笑(ほほえ)み、エゾエンゴサクは青紫のじゅうたんとなり、可憐(かれん)にキバナノアマナがお陽さまと対話している。キタコブシが香しく大きな花をほころばせ、足元の湿地の水たまりには小枝に絡みついたエゾサンショウウオの卵のうがプルプルと命を輝かせている。たまらなく愛嬌(あいきょう)のある、あのお顔にもうすぐ逢えるのだ。
 森にキツツキのドラミングが響き渡る。この辺りで何度かアカゲラを見かけた。あの小さな鳥がこんなに大きな音を森中に響かせられる驚き!ドラミングの音やさえずりで、鳥を判別しその姿を思い浮かべられたら、世界は身近で親しみ深く広がってゆく。
 日差しを暑く感じ始めるころ、クワの実は真っ黒く色づき甘い森のごちそうとなる。ゲジゲジのようなカタチは目にも楽しく、その小さな実をいくつも頬張り子供と一緒に手も口も赤黒く染めながら陽気に笑える幸福感。帰りには大きなホオの葉をいただき、クルミ味噌と炊きたてご飯をホオの葉にのせて包んだ朴葉(ほおば)ご飯はホオの葉の香りがご飯に移ってなんとも豊かで贅沢(ぜいたく)な味になる。
 秋には甘酸っぱい山ブドウの香りに包まれ、カツラの落ち葉が舞い積もるとカラメルのようなおいしそうな芳香を森中に放っている。
 樹々の株もとには赤い岩がゴロゴロと転がっている。赤い岩を幹で抱きかかえるように伸びる樹もある。ここは赤色チャートの山だ。太古の昔、海に漂う珪質の殻を持つプランクトンの遺骸が新海底に降り積もり堆積したものが長い長い時間をかけて隆起して今私の目の前にある。その成り立ちは1億5千万年前だと言われる。恐竜が生きた時代まで遡(さかのぼ)るのだ!
 12年前初めて当麻の地を踏んでからお気に入りの場所をいくつも見つけてきた。私たちの身近にはまだまだ森の恵みをいただき太古の記憶を呼び覚ます素敵な場所がたくさんあるのだ。

あなただけの当麻散歩道を見つけてみませんか。

(2009年8月号・広報とうま掲載文より・第35回エッセー)