「台湾」  オキ(アーティスト)

 海岸一帯はまるで材木屋のような匂いだ。海岸線を埋め尽くしているのは真っ赤な木肌をむき出しのおびただしい量の流木だ。流木と言っても昨日まで台湾の山奥で深い緑の葉を風に揺らしていたはずだ。時速10キロという重い足取りで上陸した台風のパワーは凄まじく、山から川に崩れ落ちた木々は激流に飲まれ、まるで芋を洗うかのようにその枝や葉、皮を剥ぎ取られたのだろう。台湾ヒノキの肌は赤い。
 昨日まで飛行機欠航のため台北のホテルで足止めを食っていた。吹き荒れる風とたたきつける雨の音を聞きながら台風速報を見ていた。被災者の人数が深刻だ。孤立した村も多く全体の被害状況がわからない。別のチャンネルは視聴者参加ワイドショー、アフリカ人なのに達者な中国語で司会者を笑わせている。なぜか日本のB級グルメ番組もやってる。コマーシャルは草原で回っている扇風機、名前はなんと!漢字で北海道。再びニュース、10階建ての温泉ホテルが川に転落。音楽祭のある台東(タイトン)の近くだ。
 2日後ようやく飛行機が飛んだ。台風は東シナ海に抜けたはずなのに鉛色の空から吹き下ろす風は強い。巨木さえも軽々と持ち上げる海のうねりは僕の目にある。音楽祭は中止になっていた。それに代わってささやかな復興支援チャリティコンサートが開かれた。いつものように陽気でにぎやかな台湾の人たちに囲まれて気持が安らぐ。親戚の様子を見に山に向かった友人もいた。

(2009年9月号・広報とうま掲載文より・第36回エッセー)