責任感の違い(平成27年8月号掲載)

新国立競技場建設計画の迷走ぶりは、目を覆うばかりである。
当初から、あのデザインは神宮外苑の美景に馴染まない、国際コンペの手続きに不透明な問題を指摘する声も上がっていたが、こんな事態になるとは。
1,300億円の予算が、現段階で2,520億円に膨らみ、すでに施工業者も内定していると聞く。
総理も世論の批判に押され、その計画を白紙に戻したが、すでに59億円にも及ぶ支払義務が発生していることに驚く。
金額が大きすぎるので、百分の一に圧縮して考えてみたい。
我が町で13億の体育館を計画したと想定する。
計画が出来上り、工事費を積算すると25億程度になってしまったが、理解してほしいとお願いするような案件である。
その上、白紙に戻すことにより6千万円の損害まで発生する。
こんなことが我が町で起きると、当然議会も町民も許していただける話ではなく、私の責任問題に発展することは明白である。
同じ東京に、世界で初めてクロマグロの群泳展示に成功した葛西臨海水族園がある。
ところが、昨年末から今年初めにかけて、飼育されていた165匹のマグロは原因不明の中、次から次と死亡し、残り一匹となってしまった。
原因究明は困難を極めたが、都民の強い要望に応え、新たに77匹が投入されたと報じられていた。
クロマグロ投入までの決断と、スタッフの皆様のご苦労を感じとれればと、上京の折、葛西臨海水族園を訪れてみた。
マグロの飼育は極めて難しいとされているが、集団で遊泳する姿は実に美しく感動的である。
多くの入園者もその姿に釘付けとなり、マグロの群泳の展示は活気を取り戻していた。
水槽のアクリルガラスには、衝突防止用テープが所狭しと張り巡らされている。
数名の飼育員は、水槽内の障害物を取り除くべく、懸命に作業をされていた。
「マグロよ、元気に泳ぎ回ってくれ」、願う気持が手に取るように伝わってくる。
大量死が発生した当時、飼育展示の班長として現場を仕切った雨宮さんは、「当時は毎晩のようにマグロが全滅する夢を見た」と苦悩の日々を語っていたが、その言葉が全てを物語っている。
比較することが正しいとは思わないが、あまりにも違う責任感である。

(平成27年8月号・広報とうま掲載コーナー・第136回随筆)