二度と起きてほしくない悲しい出来事(平成26年10月号掲載)

 日本一短い「母」への手紙の一編、〈お母さん寂しくなったら鏡見てね。きっとその中に同じ顔した私がいるから〉旅立ちの日、寂しさに暮れる母を案じ、子どもが詠んだ手紙と思われる。
 風の音に心が騒ぎ、何か変わったことが起きてはいないだろうか、おいしい物を口にする度にあの子にも食べさせてあげたい…。いつの時代でも、子を持つ親であれば思う心は同じである。
 このコーナーで“悲しい出来事”と書かせていただいて3カ月。再び悲しい出来事を書くことは忍びないが、生田美玲さんへ哀悼(あいとう)の気持を込めてペンを走らせている。
 「生きていてほしい。そのまま無事な姿で帰っておいで」行方不明という極限の精神状態の下、親御さんは一日千秋の思いで祈り続けたに違いない。
 あまりにもむごい結末である。神戸市の小学1年生、生田美玲さんは、複数のポリ袋に入れられ、自宅近くの雑木林に無造作に捨てられていた。某新聞の寸評が、悲しい気持ちを写し出す。
 〈神戸市長田区の雑木林で子どもの遺体が見つかり、行方不明になっていた生田美玲さん(6)と確認された。青い日傘を差して、遊びに出かけた女の子であった。日焼けを気にして、チョット気取ってお化粧をし…。いつかそんな大人の女性になろうと思ったかもしれない。未来はむごくも断たれた。遺体は切断されていたという。傘を握ったその小さな手が、ポリ袋のなかで冷たくなっていた。〉読む度に涙がほほを伝う。
 歳のせいで涙せんが緩(ゆる)んだばかりではない。起こる出来事があまりにも悲し過ぎる。
 美玲さんが通っていた小学校では、9月27日開催予定だった運動会の取りやめを決めた。美玲さんは歌とダンスが大好きで、楽しみにしていた運動会のダンスを熱心に練習していた。
 神戸市立名倉小学校の平井正裕校長は、容疑者逮捕の24日夜、母親に電話をかけてお悔みの言葉を述べられた。美玲さんのお母さん(29)は、「子どもたちのために運動会を開いてほしい」と、電話の中で泣きながら話していたという。その運動会は、10月4日に開催された。
 悲しみの中で頑張ったお友だちの姿は、きっと天国の美玲さんに届いたことを祈っている。

(平成26年10月号・広報とうま掲載コーナー・第128回随筆)