いのちのリレー 「世にも美しい、そして哀しい絵本」(平成23年11月号掲載)

 2008年4月から、子どもの誕生日に絵本のプレゼントをスタート。自ずから、絵本に関する話題に心が奪われてしまう。
 作家の落合恵子さんは、東日本大震災から一月ほどたった時から、被災地の子どもたちに絵本を贈る運動に取り組まれている。「被災地にまず必要なものは医薬品、食糧、水などの生活必需品。本は、そのあと。ただし期限を設けずに送りましょう」。4月半ばに第一便発送後、その数は8万冊を越えている。
 ノンフィクション作家柳田邦男さんも、「絵本は子どもだけのものじゃない。大人の心に潤いを与え、生きる上で大切なことを気づかせてくれている」と語られている。絵本は人生で3度楽しめると主張される。幼いころ、子育て中、そして人生後半になってから。
 医師であり作家である鎌田實さんが、パレスチナで起こった悲しい出来事を、平和への願いを絵本にこめて、「アハメドくんの いのちのリレー」(集英社)を出版された。「世にも美しい、そして哀しい絵本」と、瀬戸内寂聴さんも言葉をおくられている。
 〔2005年、パレスチナ難民キャンプで、12歳のパレスチナ少年がイスラエル兵に……。
 友達の家のパーティーに出かける途中のアハメドくんの小さな体に、イスラエルの狙撃兵が、2発の銃 弾を撃ち込んだ。家族の必死の祈りも届かず、少年は ”脳死” と診断された。
 主治医の勧めにしたがい、父親は、息子の臓器を病気の子どもたちに提供することを承諾した。臓器を提供する側は、移植相手を選ぶことはできない。少年の腎臓と肺、肝臓、心臓は5人の子どもたちと1人の中年女性に提供された。その全員がイスラエル国籍だった。
 敵の子どもたちに、息子の臓器を提供する。自分が同じ立場だったらとてもできないと思った〕、と鎌田さんは語られている。
 5年越しの願いがかない、鎌田さんは、その父親とイスラエルを訪問することができた。死を待つだけだった12歳の少女は、心臓移植を受けてすっかり元気になり、美しい17歳の少女に成長していた。「まるで、息子が今も生きているみたいだ」と、父親は少女を抱きしめた。
 「来年医学部を受験する。医者になれたら、いつかパレスチナのこどもの命を救い、平和の橋を架ける人間になりたい」。少女のこの言葉を聞いて、鎌田さんは絵本をつくる決意をされた。

(平成23年11月号・広報とうま掲載コーナー・第99回随筆)