「ホウレンソウの悲しみ」(平成24年4月号掲載)

 別れの3月、出会いの4月、役場の中は特別な時間が流れている。卒業・卒園・送別会と、思い出が心に宿してそれぞれの場面が流れていく。寂しさと共に、ありがとうの言葉がこだまする。
 一転、入学・入園・歓迎会と新年度がスタートした。どの場面も、出会えてありがとうの見事な桜色である。
 特に3月は、昨年の大震災以後特別な3月になってしまった。悲しい場面でも、楽しい時間にも、3月11日が心のどこかでうずいている。
 先日、加藤登紀子さんから、発刊まもない“命を結ぶ”という本を贈っていただいた。登紀子さんと、7人の方々との対談を一冊の本にまとめられたものである。これからの日本を大きく見据えて、しっかり生き抜くための大切なテキストにしてほしいと訴えている。
 本の中でも対談されているが、鎌田實さん(昨年11月町長室の窓からで紹介)が書かれた詩に、加藤さんが曲をつけた、「ホウレンソウの悲しみ」という歌の一節を紹介させていただく。
 「おまえにホウレンソウの悲しみがわかるか」。自分に言ってみた。1キロあたり1万5、020ベクレルのヨウ素が検出されたホウレンソウの心がわかるか。
 安心して食べてもらいたいと思ったのに、人々の心を不安にした。ホウレンソウは悲しいだろうな。

 「おまえにミルクの悔しさがわかるか」。牛に問いかけてみた。何も答えない。ただ、ただ、牛はさびしそうな目をしていた。

 みんな命はつながっているのだ。大地を汚したのはだれだ。海を汚したのはだれだ。美しい昔、美しい街、美しい森を、汚してしまったけど、僕はあきらめない。……(略)

 本に添えられ、お手紙も頂戴した。「この度の再選、心からおめでとうございます。美しいバラのご縁何よりうれしく、素晴らしい町づくりに大きな拍手をおくりながら見ております。またお目にかかれますように。登紀子」
 墨の香りも新しく、達筆なお言葉が心に染みる。
 雪は多くとも、射し込む陽は春である。被災地に、一日も早く本当の春が訪れることを願う。

(平成24年4月号・広報とうま掲載コーナー・第102回随筆)