利他〈人は人のために生きる〉 稲盛和夫さん(平成24年11月号掲載)

 大量殺人につながる怪奇な事件をはじめ、愛おしい我が子を殺めるなど背筋が寒くなる事件が相次いでいる。
 政治の混迷とやるせない事件の繰り返しは、日本人全体が意気消沈してしまう昨今である。先日発表された、山中教授ノーベル賞受賞の報は、暗夜に一条の光明を見いだす思いである。
 TVで拝見する山中教授のさわやかさは、さらに私達を元気づけてくれる。「洗濯機ガタガタ音がするので、座り込んで直そうと思っていたら、携帯電話が鳴った。(通話の声が)英語だったので、そうだと思った」と、報告を受けた時の様子を語っている。一言一言に人柄がにじみ出る。
 「洗濯機が壊れているなら、大臣仲間でカンパして、新しい物をプレゼントしよう」と、ばかげた提案をする担当大臣には腹が立つ。国民の思いとかけ離れた行動は、山中教授のさわやかな言動を極め立たせる。
 昨今の混迷の時代を、京セラ創業者稲盛和夫氏は、こう心配する。「豊かなはずなのに心は満たされず、衣食足りているはずなのに礼節に乏しく、自由なはずなのにどこか閉塞感がある。やる気さえあれば、どんなものでも手に入り何でもできるのに、無気力で悲観的になり、なかには犯罪や不祥事に手を染めてしまう人もいる。今もっとも必要なのは“人間は何のために生きるのか”という根本的な問いではないかと思う。」
 今年上期に選任された新任取締1445人に、理想の経営者を調査し、その結果が公表された。2位は、経営の神様といわれた松下幸之助氏、3位は、カリスマ経営者といわれた本田宗一郎氏。トップは、稲盛和夫氏である。京セラを立ち上げ、KDDIを起こしたことは承知しているが、人としての歩み方が高い評価を得たことと思う。
 「ある老師によると、地獄と極楽は見た目ではそれほど違いはないという。どちらにも、大きな釜に美味しそうな“うどん”が煮えており、みんなが一メートルもある長い箸を持っている。
 地獄の住人は、われ先にと食べようとするが、箸が長すぎて自分の口にうまく運べず、他人の箸の先のうどんを奪い合うようになり、結局みんなが飢えて痩せ衰えていく。
 一方極楽では、誰もが箸で掴んだうどんを、向かい側の人に先に食べさせてあげている。だから全員が満ち足りている。」
 利他〈人は人のために生きる〉 稲盛和夫さんの言葉に心が揺さぶられる。

(平成24年11月号・広報とうま掲載コーナー・第109回随筆)