1964年 2020年 二つの東京夏季オリンピック(令和元年10月号掲載)

56年振りに、夏季オリンピックが東京に戻って来る。
前回開催された昭和39年、私は高校3年生であり、数々の感動場面が昨日のことのように思い起こされる。
レスリングで優勝した吉田義勝選手は高校の先輩であり、金メダルを首に掛け誇らしげに母校に凱旋した姿は、今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。当時、スポーツ中継は今ほどテレビ番組に多くは組み込まていなかった。
オリンピック競技の放映により、スポーツに縁遠い人々までが選手の活躍する姿に感銘し、スポーツの魅力のとりこになってしまった。
裸足のランナー、アベベのマラソンでの快走。初めてオリンピック種目に採用された柔道、ヘーシンクの金メダルは柔道を自他共に日本のお家芸と認めていた国民にとって、計り知れない衝撃を受けたものである。
日本選手の金メダル16個をはじめ、29個のメダル獲得の場面場面に、日本中が熱狂の渦に巻き込まれた。
日本対ソビエトの女子バレーボール決勝戦、テレビ視聴率が85%に達したことがそのことを象徴している。
カラーテレビでオリンピックを見たいと、カラーテレビ受信機が飛躍的に増加した時代でもあった。
東京モノレール羽田空港線の開通、首都高速道路や地下鉄の整備等、インフラ整備が一気に進み、東京の姿は一変した。戦後19年目にして、戦禍からの復興を世界に示し、オリンピックを機会に右肩上がりの高度成長を加速させた。
56年の歳月は、日本の生活環境にも大きな変化をもたらしてきた。
来年の開催に向けて施設整備は進んでいるが、まちの姿を変えるようなインフラ整備は必要としていない。
国民の高揚感も少し落ち着いているように見える。
56年前、私たちの生活は今日ほど便利ではなかったが不自由ではなかった。
オレオレ詐欺や虐待事件などが、こんなに多い時代でもなかった。
前回の東京オリンピック以降、世界各地で起きている粉争に心が痛む。
アフガニスタン粉争での犠牲者は約200万人ともいわれ、シリア・コンゴ・イラク内戦、クルド対トルコ粉争など、世界各地で今もなお恐怖におびえる人々がいる。
満足に教育を受けることができない、食に有り付けない子どもたちがいる。
オリンピックは、スポーツを通じた平和の祭典とうたわれている。
戦禍から立ち上がった日本の姿を世界に示してから56年、今度は平和の尊さを世界に示してまいりたい。
2020年、東京夏季オリンピックは、世界の平和と安定に大きく寄与するきっかけとなることを切に願っている。

(令和元年10月号・広報とうま掲載コーナー・第178回随筆)