言葉の力(平成31年2月号掲載)

新年の幕明け早々、三人のスポーツ選手の引退とトレードの報道があり、それぞれのコメントに心打たれた。女子レスリングの吉田沙保里選手と横綱稀勢の里の引退、巨人軍長野久義選手のトレードである。
「レスリングは全てやり尽くしたという思いが強く引退を決断しました」
獲得した中で一番印象に残っているメダルはとの質問に対し、「リオ五輪の銀メダル。負けた人の気持ちがよく分かった大会だった。今まで表彰台の一番高いところで勝ってうれしいという気持ちしか味わえなかった。リオの時は負けた人はこういう気持ちなんだと感じた。負けて得た物負けて知ったことがあった」と話していた。
圧倒的な強さで絶対的女王の吉田選手であるが、優しさあふれる思いやりの言葉が胸に伝わる。
もう一度挑戦したい、目の前に迫る東京オリンピックでリベンジをしたい意地も当然あったことだろう。
全ての思いを断ち切り、引退の心境を語られる姿はいかにも晴れがましくすがすがしい。
「3連覇している強い広島カープに選んでいただき、選手冥利に尽きる」
いち巨人ファンの自分としては、この言葉を聞いた時モヤモヤしていた心の霧がスーッと消えていった。
巨人軍を通じて発表された長野選手のコメントは、喜びにあふれる広島ファンはもとより、気落ちしていた巨人ファンの心にも響いていた。
「まずは選んでいただいた広島カープの方々への思いを一番初めに伝えるべきだと思った。それからファンの方々やジャイアンツの皆さんへの感謝も」人柄がにじみ出たアッパレなコメントである。
再起への国民的願いもかなわず、唯一の日本人横綱も姿を消してしまった。努力の固まりのような稀勢の里の姿は、日本の良き時代をほうふつさせるものがあった。
中学校卒業文集に、「天才は生まれつきです。もうなれません。努力です。努力で天才に勝ちます」と綴られている。
当時の少年が、そのまま横綱になったような力士像である。
「我が横綱人生に一片の悔いがない」万感の涙とともにキッパリ言い切った。
相撲ファンとしては、あの時…少し悔いが残った引退だったが、横綱の言葉でそんな気持ちも吹き飛んでしまった。
吉田沙保里選手、稀勢の里関が会見場を後にする時、報道陣から贈られた大きな拍手にお二人の人柄が集約されていた。
言葉や対応が大きな社会問題となる昨今である。
「人の言葉に人は傷つき
人の言葉に人はいやされる
他人をおもいやり 心して
言葉を慎みたい」
教訓としてまいりたい。


(平成31年2月号・広報とうま掲載コーナー・第170回随筆)