ふるさと絵本「蟠龍伝説(ばんりゅうでんせつ)」

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『蟠龍伝説』 監修・文 笠井稔雄、絵 朝倉るみこ

当麻に伝わる熱き物語『蟠龍伝説』。北海道開拓の時代、木々が生い茂る広大な土地に、わたしたちの祖先が当麻町を切り開いた頃のお話です。

●イベント風景から

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 むかしむかし、このあたりはうっそうたる原始林がおいしげり、いたるところに大きな沼や湿地がありました。
 はてしなく広がる北国の青空。
 みどりのまぶしい光線が全身をつつみ、すんだ空気が体の中までしみこんできます。四季の移り変わりは万華鏡のように変化します。
 アイヌの人びとは山や川で狩りをし、屯田兵の家族は木を切り倒して田や畑をつくり、アイヌも屯田兵もみんな仲良く暮らしていました。
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 そのころ大雪山には様々な神様が住んでいましたが、その中にはおそろしい魔神もいて、村人を困らせるのでした。
 魔神は3年ごとに秋の刈り入れどきになると、突然、空から黒雲をわきおこして現れます。
 空は真っ暗になり、稲妻が光って、ものすごい嵐となるのです。
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 この3年に一度はおとずれる災難のたびに、村人は丘の上に避難して、ガタガタ震えているよりほかに、どうしようもありません。
 洪水がおさまってから、丘をおりて、土砂に埋まった田んぼを掘りおこし、家を建て直します。
 こんなことの繰り返しですから、村人が安心して暮らすことなど、とてもできませんでした。
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 さて、村はずれの小さな家に、音松と妹のアヤが、年老いたバア様と、幸せに暮らしていました。
 音松は、『これは人のためになる』と思ったことは、人が何と言おうと夜の夜中でも駆け出す、勇気ある男の子。アヤは、『人のツラさ』がよくわかり、涙をイッパイためて辛抱する、優しい女の子。
 でも、二人は3年前の洪水のとき、村の田んぼを守ろうとして死んだ、父ちゃんと母ちゃんのことを思い出すと、今でも小さな胸が、張り裂けそうに痛むのです。
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 その年の秋も、まあずヒドイ大雨つづきの毎日でした。
 石狩川は氾濫し、せっかく作った田んぼは海のように波立っています。
 「米がとれなければ、来年は何を食ったらいいのだ。」
 柏ケ丘に避難した村人たちは、滝ツボに立ったようにズブ濡れになって、黒雲の低く垂れた空をあおいで、タメ息をついていました。
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 音松は思わず、ジダンダをふみ、腹の底から叫びました。
 「ああ、オラ、強くなりてえ。大雪山よりもでっかくなって、大きな山をあちこちに投げ飛ばし、石狩川の流れを変えて、洪水のない広い土地をつくりてえ。安心して暮らせる村にしてえなあ!」
 村人たちも「まあず、暴れん坊の石狩川をむこうに押しやって、おとなしい川がこちらにほしいなあ。夢みたいなことだがよう。」と言って、フウっとタメ息をつきました。
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 音松は、村人の顔をジーっと、穴のあくほど見つめました。そして、アヤの手を引き、当麻山の頂上めざして、いっさんに駆け出しました。
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 頂上につくと、音松は、力の限り叫びました。
 「父ちゃーん!オラ、強くなりてえー!でっかくなりてえー!」
 アヤは涙イッパイためて、静かに祈りました。
 「母ちゃん、村を救って・・・。どうぞ・・・お願い・・・。」
 二人は、いつかアイヌのおじさんから聞いた話を思い出していました。
 ~エゾ地に住む人々を守ってくれる、龍の神様“カンナカムイ”が、どこか地の底にひそんでいるはずだ!~
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 するとどうでしょう。
 突然、東のフタマタ山のあたりから、二頭の龍が高々と空へ舞いあがり、ゆっくりゆっくり近づいてきた。
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 恐ろしい形相をした二頭の龍は、二人に何か話しかけているようだった。
 そして、音松が大きな龍の背に、アヤが少し小さな龍の背に、ヒョイっと飛び乗ると、二頭の龍はヒュルルっとウナリを立てて、大空におどり上がった。
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 空いち面がニワカにかき曇り、ゴゴーン、ゴゴーン と大きな音が、天と地を揺るがし始めた。
 二頭の龍は、満身のチカラをこめて、大雪山にぶつかっていった。
 山はグラグラ揺れ、岩や土が飛び散った。しかし、なかなか崩れない。
 龍のカラダからは血が流れ、はく息は炎となって、山肌を焼き尽くした。
 二頭の龍が最後のチカラをふりしぼり、ドっと体を打ち付けたとき、激しい山鳴りとともに大雪山は崩れ、パックリと口を開けた。
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 二頭の龍は、その山をスポンスポンと引き抜くと、村のあちこちへ投げ飛ばした。
 ザバーッ、ドドーン と、石狩川を真っ二つに割ると、その水は黒雲まで飛び上がり、降ってきた川の水は ザバザバ、ザバザバ って、遠くの方へ逃げていった。
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 雨がやみました。
 初めて黒雲が切れ、太陽の光のスジが、地上をサアッと照らし始めました。
 新しく生まれた『当麻川』と『牛朱別川』が、キラキラ光ってどこまでも続き、カガミのように静かです。
 その周りには、よくコエた、豊かな土地が次第に現れてきました。
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 このとき、柏ケ丘の村人たちは、去っていく二頭の龍の背に座っている、音松とアヤの幸せそうな顔をハッキリ見たそうな。
 「きっとあの龍は、死んだ父ちゃんと母ちゃんの生まれ変わりだべ。」
 「音松とアヤは、ワシらを救ってくれたのじゃ。」
 村人たちは、口ぐちに、そう叫びながら、両手を合わせ、いつまでもいつまでも、おがんでいたそうな。
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 その後も、村人たちは東の空に、二頭の龍をときどき見たそうな。
 「きっとあの龍は、いつもどこかで、この村を守っていてくれている。」
 村人たちはそう信じて、一生懸命に働きました。
 だから、村はどんどん豊かになりました。
 そして、音松の勇気と、アヤの優しさは、この村の人々の心の中に、今もなお、生きつづけているそうな。
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 しばらくして、二又山(ふたまたやま)のすぐそばに、神秘的な洞窟が発見されました。まるで龍が二頭横たわっているような鍾乳洞で、人びとに「えぞ蟠龍洞(ばんりゅうどう)」と呼ばれるようになりました。
 そして、今では毎年たくさんの人びとがここを訪れています。